沼田まほかる「猫鳴り」
読後、何日か経って、やっと消化されてきたかも知れない。
沼田まほかるの「猫鳴り」

可愛い表紙とは裏腹に、本の中には濃密で重たい空気が溢れている。
第一部
流産してしまった信枝が、初めて捨て猫モンと出会う。
何度も、何度も、生後間もないモンを捨てにゆく信江の冷たさが壮絶だ。
モンを飼うことで、失くした子を思い出すことの辛さを受け入れようと提案する夫。
大人は、「あきらめ」という言葉の意味を知っているが、
心から「あきらめ」られるかどうかは別問題なのだと思った。
第二部
父子家庭の行雄が抱える、思春期の爆発的な怒り。
守られるだけの存在として、ペンギンの子と幼児を同一視し、
それらに対する嫌悪をつのらせる。
虚無、破滅、焦燥。
行雄の抱えている思いを、父親が一言で片づける。
それは「絶望」なんだよと。
モンが、行雄から奪った、死んだ子猫は「絶望」の象徴なのかも。
第三部
信江の死後、夫 藤治が老いたモンと暮らしている。
神秘性をたたえていたモンが、徐々に老いて死に向かってゆく。
モンと別れる心の準備の出来ない、藤治。
あれこれと、思い悩み、戸惑い、恐れる。
そんな藤治に若い獣医が言う。
「こんなにも自然に自分で去っていこうとしている猫に、
どんな人工的な手段もとりたくないと思うでしょう」
「自然」という言葉は、まさしく全てを内側に抱え込み、
そうして、全てのものを安心させる。
最後の数ページ、電車で読むには危険すぎて、
職場についてから読んだ。
やっぱり、え~ん


どっと涙が溢れた。
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