穂村弘「世界音痴」

運動音痴でも、味覚音痴でもなく、世界音痴なのです。
多分、一つの分野だけが音痴なのではなく、
感覚全般が、そこはかとなく音痴なのです。
ダメダメなところばかりの「私」が感じている世界観が、
この「私」にも、何となくわかるのです。
気にもとめず、取り立てて深く考えもせず、
あぁ、そういうの、私にもあるある、みたいな部分を
日常生活から切り取って、見せてもらったような感じがします。
例えば、回転寿司屋でコートを脱いで座るかどうかに迷い、
しばらく欲しいネタが流れてこない時に
「廻っていないネタがあったら声をかけて下さい」
と、まるで心を見透かされたような言葉にドギマギする。
例えば、飲み会で「自然さ」を強調しようとするがあまり、
「不自然」になってしまう。
これが、タイトルにもなっている世界音痴の感覚。
例えば、たまたま自分だけが会話に加われない話題になると、
熱湯のような激しい混乱と痛みを感じる。
つまらなそうな顔もできず、相槌も打てず、質問もできない。
などなど。
ぷ~っと吹き出したり、にま~と顔が緩んだり、
短い短編がいっぱいつまっていて、どれも面白い。
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