乾緑郎「思い出は満たされないまま」

小学生の頃、家から少し離れた団地に住んでいる、
同級生の家に遊びに行きました。
季節は、秋だったか、冬だったか。
夢中になって遊んでいて、ふと気が付くと、
部屋の中に差していた西日が隣の棟に遮られて、
すっかり暗くなっていました。
我に返って、急激に寂寥感を覚え、
心臓がドキドキして、急いで家に帰りました。
走って帰る私の背中を、
どこかの部屋の夕飯の匂いが追いかけてきました。
すっかり忘れていた、子供の頃の記憶が、
この本を読んで思いがけず蘇りました。
少し古くて、静かで、建物の影の暗さが今とは違う、
そんなレトロで昭和チックな団地の風景を思い浮かべます。
言葉にできないけど、匂いや明暗で覚えている、
懐かしいような、怖いような、寂しいような思い出です。
☆二つ
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